ギュルケ版を使用して成功したジョルディ・サバール指揮「運命」
古楽器演奏はどことなく研究発表会臭いきらいがあるものだが、サバールはギュルケ版「運命」の楽譜を使用して、圧倒的な迫力を発揮した。とりわけ第三楽章と第四楽章との連結では当代の巨匠の解釈に古楽器演奏の陣営から一泡吹かせた大逆襲を放った。お見事でしたと敬服した。
今夜のNHKFMのベストオブクラシックはスペインからジョルディ・サバール指揮ル・コンセール・デ・ナシオンの演奏であった。(2019・10・10)これはベートーベン交響曲全曲演奏会の第二回目で、交響曲第三番・第五番「運命」であった。
第一楽章。
オーケストラは50人で弦楽器がその半分だから、「運命」の冒頭主題は、やはり脆弱なものだった。
248-251小節で、サバールの独自の解釈が噴出した。
サバールは249、250小節のティンパニで、ten,記号をクレンシェンドと解釈して音を極端なほど独特に演奏させたのである。
480小節のティンパニも、その直前にある運命主題とは異なって、テンポを落としてテヌートで打たせたのが印象的であった。これも現代オーケストラでの演奏であっても抜きんでた解釈に属する。
第二楽章。
131-132小節のフルートでドルチェ指定を、サバールはsfで強調してみせた。
第三楽章。
この音楽の演奏の胆はこの楽章であった。サバールはギュルケ版を使用して、237小節でダ・カーポ(反復)した演奏を実行した。初演ではダ・カーポして演奏されたが、ベートーベンによって後日削除された場所だ。
さて第三楽章から第四楽章へと切れ目なしに連結した373小節で、サバールはティンパニにクレッシェンドさせて打たせた。この迫力は当代の巨匠たちに対する古楽器演奏家からの逆襲であったろう。
こんなユニークな解釈を古楽器奏者に許してしまうことは、現代オーケストラの巨匠たちの職務怠慢というほかないだろう。
サバールに脱帽である。
ユニークな解釈は、29,33小節にもあった。
29、33小節のティンパニの後半にサバールはクレッシェンドを掛けたのである。眼を見張る効果であった。
ピリオド奏法の限界を超えて一般の演奏でも抜きんでた名演を引き出したのである。
おそらくサバールのベートーベン・チクルスは後日CDになって容易に聴かれると思うのであるが、スタジオ録音だとするとライブの醍醐味が半減するわけで、どうなるであろうか。
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