パスカルの葦笛のブログ

クラシック音楽のテレビやFMの放送からその演奏を視覚(楽譜)で再現します。後から読むだけでどんな演奏だったか理解出来ます。

土壇場で超絶技巧を示したバックハウスの「子犬のワルツ」

今週のNHKFMは「バックハウス変奏曲」を放送している。バックハウスのショパンが意外に魅力的なのに驚いた。


ショパンの「子犬のワルツ」の演奏だが、バックハウスは超速球で駆け抜けて、濃くに欠けるきらいがないではない。


パハマンのブレスをバックハウスは踏襲しているが、むしろ平坦な表現で終始し、速度の方に興味があるようだ。


これで全編を切り抜けると思いきや、土壇場で超絶技巧を披露した。


終結のフレーズで、バックハウスはアクセントで開始し最後の4つ目でリタルダンドを掛けた。最後の音はフェルマータが掛けられブレスして二分音符に弾かれたが、f記号はfpに変えられて、下方音階の四分音符をfで叩いて終わった。


ここが全曲の見せ場となった。


さて、余談だが、この時はグリーグのピアノ協奏曲の演奏も披露されたて、意外なこの曲の決定盤が開陳された。これは凄い演奏だった。昔は名曲中の名曲でよく聞かれたが、今は聞かれなくなった。


バックハウスはウィーン・フィルで録音されるはずであったが、伴奏指揮者のワントがそんな通俗曲は止めなさいと忠告したので中止になった。それが正しかろう。


が、バックハウスは10才の時グリーグと会っていて、格別な感銘を受けてこの曲に特別な肩入れがあって、その普及に使命感を持ったようだ。グリーグの音楽を後期ロマン派と捉え、妖怪的な濃厚な解釈で演奏した。バックハウスの演奏は単なる通俗曲で終わらせない、作品を2つも3つも上に高める演奏をしている。


ステレオ録音で後世に残そうと考えたバックハウスはワントの要らない忠告で出鼻を挫かれたわけで、楽譜をさらりと正確になぞる当時のワントでは、後期ロマン派の音楽の伴奏に合わないと考えて撤回したというのが真相だろう。そういうわけで後世に残る決定盤が失われたわけだ。


だからと言ってバックハウスの古い録音を買い求める気にはなれないほどグリーグのピアノ協奏曲は通俗曲である。