パスカルの葦笛のブログ

クラシック音楽のテレビやFMの放送からその演奏を視覚(楽譜)で再現します。後から読むだけでどんな演奏だったか理解出来ます。

ベートーベン交響曲6番ベンツァーゴ指揮ベルン交響楽団

我々の知らない名指揮者が誕生した。マリオ・ベンツァーゴ(1948-)はベルン交響楽団の指揮者、すでにブルックナー全集を完成していて、なんと去年4月8日サントリーホールでブルックナー3番を読響で指揮することになっていたが、コロナウィルスの流行で来日が中止されたのだそうだ。まあ1、2年は疫病は沈静化しないから、実際の演奏はそれ以後になろう。


今夜はベートーベン交響曲6番田園をベンツァーゴ指揮ベルン交響楽団の演奏が放送された。(2018・6・24)


第一楽章。
超快速のテンポで開始したのに驚かされた。とおもいきや、3-4小節で今度はラレンタンドを掛けてテンポを落としたのだ。

さて、緑色はロイブナー指揮NHK交響楽団の懐かしい演奏である。それと同じことをベンツァーゴ指揮ベルン交響楽団がしている。


その心は二人ともウィーンの味を出したということだ。ロイブナーは生粋のウィーン子で、ベンツァーゴはウィーン国立音楽大学でスワロフスキーに学んだ。


104-114小節ではアッチェレラントを掛けてテンポを加速させていた。本来はベンツァーゴはこの方が得意らしい。


67小節でもベンツァーゴは面白い演奏をしているのだが、その再現でもある345小節の楽譜を引用したい。

ベンツァーゴはここでラレンタントでテンポを落とし、346小節でア・テンポで戻した。


これは実はワインガルトナー指揮ロイヤル・フィルの演奏であるのだ。ばりばりのウィーンの味を出すことを心がけているわけだ。


第五楽章。
もうコーダに入りかけて終結する寸前の所でも、ベンツァーゴは味わい深い演奏をしてみせたのである。238-248小節の第一バイオリンである。


ベンツァーゴは、238、241、242、244小節で大きな間をいれて演奏させていた。そして243小節の最後で第3拍目に大きなリタルダンドを掛けて演奏させていた。これなどは類例のない解釈だ。


ということで予想外の深い解釈に裏打ちされた田園を聴くことが出来た。


<付録>
この演奏会ではアンコールがありエグモント序曲が演奏された。これも滋味豊かな演奏であったので言及しておこう。


24小節第一バイオリンで、冒頭にリタルダンドで演奏した。

ベンツァーゴ指揮ベルン交響楽団の演奏であったが、なんとメンゲルベルク指揮ニューヨーク・フィルといった古色蒼然とした演奏を復活して見せたのである。


この人の教養の深さを教えられた思いである。この人でブルックナーを聴かずして死ねない思いがしてきたのは、私一人ではあるまい。


(追記)
このメンゲルベルクの解釈だが、メンゲルベルクご自慢の曰くつきの解釈で、何でもベートーベンの指揮した下で演奏したバイオリニストからベートーベンがこう演奏したという曰くを聞いたのだという。時代的には有り得る話なのだ。


当時共同指揮者だったトスカニーニは怒りだして、「俺はベートーベンから直接聞いた」と反論した。楽譜忠実主義がここから始まった。


野田岩のウナギのタレは江戸時代から代々継ぎ足して今日まで伝承された味だという。


ベートーベン、ベートーベンの下で演奏したバイオリニスト、メンゲルベルク、ベンツァーゴと四代続いた伝承芸だともいえる。それを信じれば後生大事な家宝のような演奏だということになる。その曰く付きを知っているベンツァーゴは、マジらしい。