ベートーベン交響曲3番井上道義指揮NHK交響楽団
井上道義はアンサンブル金沢時代は古楽器奏法の信奉者だったが、今回は古楽器は一掃されていた。オーソドックスな旧来の演奏に復帰していた。さらに驚くべきは、今では忘れられた巨匠エーリッヒ・ベルゲル(1930-1998)にたいするリスペクトにあふれる演奏を提供したことだ。
今夜のNHK交響楽団定期演奏会生中継は、ベートーベン交響曲3番井上道義指揮NHK交響楽団の演奏であった。
第一楽章。
これが最も名演だった。アゴギーク(テンポの伸縮)は使用しなかった。
155小節の第一バイオリンの旋律がウァイクル読響では、ファゴットとクラリネットで演奏されていたのだが、井上道義N響では何とファゴットが和音だけを演奏して旋律は演奏しなかったことだ。
ベーレンライター版楽譜だと、井上もウァイグレと同様に旋律を演奏しないといけないのだが、まか不思議である。
304-312小節のトランペットで、このパートを浮上して演奏させたのが巨匠エーリッヒ・ベルゲルの名演だったが、そっくりそのまま井上も強調させた。
これだけではない。ベルゲルの巧妙なニュアンス付けの白眉は435-445のテンパニの演奏であろう。
435、441のsfを強烈に強調するのがベルゲルなのだが、まったく井上はその影響を受けている。恐ろしい事に、442小節では井上が2拍に独自にアクセントを強調させているのは個性があって良いのだが、435小節の場所が合致していて、気分でやっているわけではないのだ。アナリーゼを駆使しているわけだ。443小節のsfも井上は癖のある演奏をさせているが、ベルゲルの発案と言えよう。
その極みは629小節のテインパニにあった。
ベルゲルは629小節のテインパニにfで打たせているのだが、井上もfで打たせている。
物まねといえばそうなるが、ベルゲルに対するリスペクト(尊敬)なのであろう。
余談だが、658-662小節のトランペツトの伝統的なワインガルトナー修正を井上は堂々と踏襲していた。
これで井上道義はいよいよオーソドックスな正統派に復帰宣言して巨匠たちの世界に突入する覚悟が出来たようである。
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