ミスター・ユニークの名に恥じないプレトニョフ指揮東フィルのビゼー
ミスター・ユニークの名に恥じないプレトニョフのビゼーの交響曲の演奏であった。この曲は単純過ぎてなかなか難物で、ほとんどの指揮者は扱いに苦慮し、したがってまず名演がない。その中で第二楽章にプレトニョフは活路を見出した。
今夜のNHKFMのブラボーオーケストラは、プレトニョフ指揮東京フィルでビゼー作曲交響曲第一番ハ長調の演奏であった。(2019.10・17)
ビゼーは、師匠のグノーの交響曲に刺激されて、17歳で交響曲第一番を作曲した。世間ではあってはならないことなのだが、本物(グノー)を贋物(ビゼー)が超えるという珍現象を生んだ。バターとマーガリンは、どこまでも本物と贋物の関係なのだが、健康志向で金持ちも進んでマーガリンを好む。つまり贋物が本物を超えてしまったわけだ。
ビゼーの強味は17歳という音楽知識の浅い学生の分際ということで、杓子定規でソナタ形式を教科書から強引にグノーの楽譜に適応して見せた点であった。後年ワインガルトナーに演奏に値する音楽か判断を仰いだ時、規準になったのがソナタ形式に合致しているかという点で彼は合格点を出した。当然だろう杓子定規に適応させたからだ。その結果本物(グノー)をパクッた方の贋物(ビゼー)が世に出た。今だにグノーの本物の方が陽の目を見ないのである。ビゼーを聴きなれた耳にはグノーが贋物に聞こえるのだ。
第二楽章。
練習番号1の1つ前、フルートが3つ音型を反復する所で、プレトニョフは3つのユニットにリタルダンドを掛けたのは、まず彼だけの解釈であろう。
3つ目の4分音符にはtenut.の記号が付いていて、プレトニョフはそれにフェルマータを掛けて延ばしていた。これもユニークな解釈だ。
練習番号2の3小節の第一フルートに、彼は最後の3つの音符にやはりリタルランドを掛けて次第にテンポを落とさせていた。ここはミユンシュ(フランス国立放送管)なども同様な解釈をしていた。
さて、練習番号5の1-4小節で、pp指定なのをあえてfで演奏させていたのがプレトニョフであった。
面白いのは5の前で、ミユンシュやベンツイ(ロンドン響)などがラレンタンドといったテンポの落としをやっているのに、素通りしていると、次の小節の低弦にfを演奏させたことだ。そしてすぐpに弱めさせた。それをもう一度再現させた。
ユニークさでは只では起きないプレトニョフは、第二楽章で存分に暴れて見せたのである。
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