パスカルの葦笛のブログ

クラシック音楽のテレビやFMの放送からその演奏を視覚(楽譜)で再現します。後から読むだけでどんな演奏だったか理解出来ます。

肉声も聞こえた渾身のベートーベンスクロバチェフスキ指揮NHK交響楽団の「運命」

ダイナミクスの変更もありアゴギークも効かした何でも有りの老巨匠の自由闊達な演奏に舌を巻く。


今夜のN響ザレジェンドは、スクロバチェフスキ指揮NHK交響楽団でベートーベン交響曲5番「運命」の演奏であった。(2004・4・21)


スクロバチェフスキはかなりの部分に音を抑えたピアノで演奏させたかと思うと、基本的には速いテンポにも遅くさせたり、さらに加速させたりのアゴギークを駆使して「運命」を八面六臂で料理したといえよう。


第一楽章。
冒頭の運命の動機だが、8分休止など無視して連続で演奏させた。それほと切迫していたのであろう。この人は元来が速いテンポが売り物である。44小節から楽譜にないpに転じた演奏なども変わっている。まあ51小節のffの効果を出すためだ。そこで演奏はダイナミクスの変更で演奏させるのかと思いきや、テンポの伸縮にも手を出した。


第二楽章。
114小節の低弦で、fの指定をffで演奏させると、122小節の第一バイオリンにテンポを落とさせたのである。


1拍目にアクセントを掛けて、後半にラレンタンド(だんだんテンポを落とす)をしているのがフルトベングラーで、スクロバチェフスキは同じことをしている。つまりフルトベングラーを尊敬していて、また帰依もしている。若い時はトスカニーニを尊敬していた彼であったが、老境に入るにしたがってフルトベングラーへの尊敬が増したと告白している。


223小節で、スクロバチェフスキが突然歌い始めるというハプニングが起こった。


223-226小節に、よほど思い入れがあって、オーケストラの演奏に任せておけなくなって、スクロバチェフスキはメロディーを歌ってしまったのだ。御愛嬌だろう。


第四楽章。
342小節から彼はアッチェレラント(加速)を始めると、354小節からモルト・アッチェレラント(さらに加速して)した。398-399小節の2小節ではN響があまりにもスクロバチェフスキが「あおり運転」するので、とうとう演奏が崩壊し始めた。

400小節に入る手前で、N響は4分音符が維持出来なくなって、8分音符・16音符に縮むのである。これは見物であった。


もっともスクロバチェフスキの命令通りに加速して正確に演奏しているのだと言えなくもない。あるいは尊敬しているフルトベングラーの演奏を、彼ならこう演奏させるのだ、とN響に教えたのかも知れない。


コーダの終結にも彼の一工夫があった。

テインパニのトレモロだが、長く延してクレッシェンドという味付けをした。聴衆は尋常ではいられなくなり、狂乱するのは明白であった。