後期ロマン派の爛熟味があったエッシェンバッハ指揮N響のマーラー第二番
今夜のNHKFMはN響定期公演ライブで、エッシェンバッハ指揮N響でマーラー交響曲第二番の放送であった。ますます円熟味を増すエッシェンバッハのマーラー解釈は未曾有の深化を遂げている。第二楽章は古今東西の名演を壊滅させたと言って良いだろう。
マーラー解釈には、二通りある。後期ロマン派としてのマーラーと、現代音楽の先駆者としてのマーラーである。後者にはブーレーズ、アバド、フィンランド楽派など大方の指揮者だ。前者はワルター、ノイマンといったところである。そしてこのエッシェンバッハがいる。多勢に無勢といったところだろう。しかし今や有力な助っ人に躍り出た。
第一楽章。冒頭の低弦の曰く有り気な松脂が飛び散るような鋭い弓をこすりつける演奏からして尋常な演奏でない。彼は何かを表現したくてたまらないのだ。練習番号7の前後、ハープから第一バイオリンに引き継がれるところで、エッシェンバッハはリタルランドを掛けた。
彼の並々ならない解釈はこうして始まったのである。
練習番号22の10の所のフルートでも、またしてもリタルランドが現れた。
エッシェンバッハは本気でマーラーの新解釈の提示を実践している。この根胆に敬服するばかりだ。
第二楽章。ここも冒頭からして、出だしのリズムの取り方に、独特な感性を発揮していた。
ユニークな解釈は練習番号8の所であった。
第一バイオリンが長々とメロディーを演奏しているわけだが、ffからppに転換するところで、エッシェンバッハは意図的に縦線にフェルマータ記号を置いて、間を置いたのだ。いまだかつてこんな解釈をした指揮者はいない。彼の発明になる新解釈である。
これには驚嘆の限りであるというしかない。
名実共に、N響の演奏は止まるわけである。
練習番号12もユニークな解釈であった。第二バイオリンのソロで演奏されるメロディーは、12の4小節前でリタルランドがかけられて、テンポが次第に落ちてゆくのである。12からア・テンポで元の速度に戻った。
練習番号13の9-10小節の第一バイオリンで、6度の上昇音階が弾かれるのであるが、多分エッシェンバッハとN響はグリッサンドで、同一弦でひゃくり上げて演奏させたようである。そのために格別の美しさが醸し出された。
マーラーを前衛音楽の先駆者とする演奏解釈では、この演奏は出てこない。エッシェンバッハがマーラーを後期ロマン派とするから、古臭い演奏法でここを演奏する気になったわけだ。その絶妙な賜物を頂いた気がする。
そんなわけでこの巨匠は今絶頂期にさしかかっていると言えるのである。
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