パスカルの葦笛のブログ

クラシック音楽のテレビやFMの放送からその演奏を視覚(楽譜)で再現します。後から読むだけでどんな演奏だったか理解出来ます。

男泰次郎空前の大見えを切ったブラ1飯守泰次郎指揮仙台フィル

この人がこんな大見えを切れる人だったとは思わなかった。フィナーレのティンパニの大連打で一音節切ってはほとんど楽譜を無視した演奏は、演奏史上に残る逸脱であった。この一曲で永遠の名声を獲得したと言える。


今夜のNHKFMのベストオブクラシックは、飯守泰次郎指揮仙台フィルでブラームス交響曲第一番の演奏であった。(2020・2・14)


前半はベートーベンの交響曲第八番の演奏であった。同じ40代の作曲なのだが、飯守は青年ベートーベンと老巨匠ブラームスというコンセプトで把握したために、八番は速いテンポと遅いテンポの好みからくるだけではない違和感で、終始馴染めなかった。


一転してブラームスは、飯守の破格で逸脱した解釈であっても終始楽しめたのはどういう理由であろうか。


第一楽章。
ダ・カーポで反復を実行したのも今では珍しいアプローチである。


320小節で、明白にテンポを落としたアプローチは、この演奏が凡演で終わらない予感を告げた。


ここでティンパニにリテヌート(テンポを落とす)というアプローチは、飯守泰次郎のオリジナルな解釈といえよう。評価したい。


コーダがこれまたユニークな解釈であった。


505小節のティンパニで、fの指定の後飯守はppに弱めている。506小節でも同じである。507小節でfにした。この辺の変幻自在な解釈は古今東西の名指揮者にも見られなかったものだ。


第二楽章。
100-104小節、ホルンのソロに、飯守はクラリネットを強調させて演奏させたのがこれまた独自な色彩を放った。


第四楽章。
182-183小節でリタルランドを掛けたのがマルテイノン日本フィルの演奏であったが、飯守はこれを参考にした。


267小節以下のホルンは有名な四回反復の箇所だが、第一回目を飯守は少しテンポを落として演奏させた。そのニュアンスの付け方は独特であった。


285小節の四分休符にフェルマータを付して、大胆な沈黙を与えたのも効果的だ。


さて334-335小節のティンパニでは、ミユンシュと小沢征爾が加筆していて、後輩にあたる飯守が踏襲しているのが印象的である。小沢によってこの道が開けたのである。


白眉なのが、375小節以下のティンパニの連打である。sfに対する飯守の独特な色どりは特筆すべきものである。


その次の381-390小節に続くティンパニの連打こそ、この演奏の山になった。


飯守はティンパニがトレモロ(連打)になっているのだが、トレモロを中止して、矢印で切れた音として打たせたのである。古今東西の名指揮者に類例のない解釈であった。歌舞伎の名優の大見えを切った演技をここに見るのである。飯守がそんな大それた破天荒な人物であったであろうか。


さて破天荒は終結部にもあった。最後の和音を四倍の長さに引き伸ばした。異例ずくめの名演であった。